苗木くんに告白してもらった


後日談







翌日、ボクは寝不足気味なまま登校することになった。もしかして昨日の出来事は夢だったのかもしれない、という不安を抱きながら教室のドアを開けると、その中にいた全員がボクを振り向いた。ボクはそんなに派手な登場した覚えはないんだけど。だけどなんでみんな、朝日奈さんの机に集まっているのだろう。ぼんやりとそう思っていると、「あー! 苗木!」とみんなの中心にいた朝日奈さんがこちらに飛び出してきた。………その手に日誌を持って。


「ちょっと苗木! これほんと? どういうことなの!?」
「これって?」
「これ! 説明しなよ苗木!」


興奮気味にまくしたてる朝日奈さんは、ボクの前に日誌を突き出した。ああ、確か飴凪さんがセレスさんとの賭けに負けて書いたページだ。つまり、昨日の。ボクは言われるままに朝日奈さんから日誌を受け取って、目を通した。昨日見た通りの内容で、特に変わったところなんてない……けど………。


「なっ………!」


それは最後、一日の感想の欄だった。大抵は今日は誰がうるさかったとか、今日も楽しかったとか、そんな一言が書かれている場所。昨日飴凪さんが書いた文もみんなと同じでたった一言。それは別にいい。だけど、そこに書かれていたのは、


『今日は苗木くんに告白してもらいました』


どうやら、昨日のことは夢でも幻でもなかったらしい。ああ、良かった………。じゃなくて!


「どういうこと苗木! こ、告白したの!?」
「いや、え、ええ!?」
「どうしたの、苗木くん。こんなところで立ち止まって」


とん、と肩を叩かれて後ろを振り返れば、そこには渦中の人が。朝日奈さんが「星歌ちゃん!」と朝とは思えないハイテンションで彼女に詰め寄る。飴凪さんは最初現状が掴めず驚いていたけど、ボクも朝日奈さんに負けず劣らず詰め寄る。


飴凪さん、これなに!?」
「あ、うん。一日の感想を」
「いやそうじゃなくて! どうしてこんなこと書いたの!」
「なんでも書いていいって言ったのは苗木くんだよ」


いや確かにそう言ったけどさ! 口をぱくぱくとさせるボクに、飴凪さんは困ったように表情を曇らせた。そんな顔をされたら、もう何も言えない。そんな顔さえ愛しく思えるんだから、もうなんとでもなれとボクは大きく息を吐いた。――――そうだ、つまり、これでボクと飴凪さんは公認の仲なんだから、もう飴凪さんに余計なちょっかいを出してくる奴がいなくなると考えれば、悪いことばかりではない。ボクが昼休みに飴凪さんを独占しようが放課後に一緒に帰ろうが部屋に入り浸ろうが、誰にも文句は言われないわけか。………なるほど。


「切り替え早いわね、苗木くん」
「前向きなのが、ボクの唯一の取り柄だからね」
「そう。なら、今の内に言っておくわ。星歌は私の友人よ」
「知ってるよ、霧切さん。これからは、ボクの恋人でもあるわけだけど」


とりあえず、今日は質問攻めで忙しそうだな、とボクは霧切さんの忠告を軽く流して席につくことにした。